ひもを結ばずに、足を滑らせて履ける革靴、ローファー。英語の loafer には「怠け者」という意味もある、とも言われます。
ところが1936年6月の米国では、この靴はまだ「モカシン」の名で紹介され、ロンドンでは「ノルウェー人(Norwegian)」とも呼ばれていました。
では「怠け者」の名は、いつ、どの靴に付いたのでしょうか。
「ひもを省いた靴なのに、名前の出どころを追いかけると、やたらと手間がかかるんだよねぇ」
ローファーとは? 目印は甲の飾りとU字の縫い目
ローファーは、ひもが無く、甲(足の甲を覆う、靴の前の部分)にU字の縫い目と帯状の飾りがある革靴とされます。ひもの無い短靴(スリッポン)の型の一つとされます。
甲の上にのせた帯をサドル(甲のベルトとも)、帯の切れ込みをスリット、甲のU字形の縫い合わせをモカシン縫いと呼びます。甲の部分は、ヴァンプとも呼ばれます。
帯の切れ込みに硬貨(コイン)を挟む型が、ペニーローファー(コインローファー)とされます。甲の飾りが房や金具の型もある、という説明もあります。
詳しく見る:部位の名前と、ビーフロール
タッセルローファー
甲に房飾り(タッセル)の付いたモカシン型の靴です。履き口に沿ってヒールの方までベルトを回したデザインが特徴、とも言われます。この型を説明した資料は、手元では1点だけでした。
ビットローファー
ペニーローファーの帯に、馬具のくつわの形の金具(ホースビット)を付けた型です。金具の由来は、同じ資料の中でも、女性用バッグの部品とする所と、グッチがモカシン型の靴の飾りに使って広まったとする所に分かれます。
「ローファー」の名は「怠け者」から?
「怠け者」と同じ綴りですが、ひもが無く楽だから付いた名とは言い切れません。名付けの理由を確かめられる資料は見つかっていません(編集部調べ、2026年10月)。
1936年2月、ロサンゼルスの靴店では、甲をひもでなく留め金の付いたベルトで留める型(モンクストラップ)の靴が「loafer」の名で売られていました。いまの形の元になった靴は、同じ年の6月にもまだ別の名でした。
1938年1月には、マイアミの紳士服店が「The Loafer」を新しい靴として紹介していました。街でスラックスに合わせても、家でくつろぐときにも履ける靴という触れ込みで、どんな形だったかは分かっていません。
英語の loafer は「ぶらぶらする人、怠け者」を指す語で、1830年から使われ、語源ははっきりしないとも言われます。靴の名として使われた記録は1937年から、という説もありますが、1936年2月の例はそれより前です。
名の意味を「怠け者」とし、ひもが無く脱ぎ履きが楽だから付いた名だ、とする資料はあります。
ただ、どれも根拠を示しておらず、名付けた者の書き方もそろいません。語源がはっきりしない以上、「ひもが無く楽だから付いた名」とは言い切れません。
1936〜40年の当時の靴業界の雑誌4号を開いても、名付けの理由を書いた記述はありませんでした(編集部調べ、2026年10月)。
「”どこの靴か”って名札は、売る側が付けるもんだろ? 名札と出どころは、分けて読まないとねぇ」
詳しく見る:当時の呼び方と、1937年の商標の話
loafer が1830年から「怠け者」の意味で使われ、靴の名としての記録は1937年から、という説は1点の資料だけです。1936年2月の例は、当時の誌面を開いて確かめました[2][3]。
1936年2月の例は、ロサンゼルスの靴店の春の売り場の話です。屋外向けの品の筆頭に「military step-in」と「loafer」が挙がり、loafer は茶・青・紺の bucko の、正真正銘のモンクストラップの型でした[3]。
1940年12月には、春の子ども靴の主な型として「saddle、moccasin、leisure(くつろぎ)または loafer の靴、monk」の4つが挙がっています。loafer の型は、モカシンを作り替えたものでした[4]。
探した範囲(名付けの理由): 次の4号を、全文の文字検索と該当の頁の画像で見ました(編集部調べ、2026年10月)。
ニューヨークの靴ブランドが1937年に「ローファー」の商標を得ていたので、G.H.バス社は「ウィージャンズ(ノルウェーの、の意)」の名で売った、という説があります[7]。
ただ、この順番は当時の誌面と合いません。1936年6月には、すでに「Weejun」の呼び名があり、「Weejuns」の広告も出ていました。1937年の商標の記録そのものは、まだ確かめられていません[5]。
バス社のウィージャンズは1936年発売、という説もあります。1936年6月にはもう売られていたので、時期は合います[5][8]。
「怠け者」の意とする資料は3点あります。脱ぎ履きが楽なことから付いた名とする資料と、米国の靴メーカーが名付けたとする資料があり、どれも根拠は示していません[7][8][9]。
生まれの話は3通り、決め手はまだ無い
ノルウェーの農民の靴、英国の上流階級の室内履き、ノルウェーの室内履きの3つの話があり、決め手はまだありません。確かなのは、遅くとも1936年6月に、この靴が「ノルウェーの靴」としてニューヨークで売られていたことです。
1936年6月には、こんな話が米国の靴業界に伝わっていました。米国のバイヤーがロンドンでこの靴を見つけ、出どころをたどると、ノルウェーの数軒の手作りの靴屋に行き着いた、というものです。ただし、事情をよく知る人から聞いた話です。
ここがポイント
この話は、英国人が「ノルウェー経由」で祝福して送り返すまで、米国人は自国のモカシンに夢中にならなかった、という皮肉で結ばれています。
一方で、始まりを1920年ごろ(1920年代)の英国に置く資料が2点あります。英国の上流階級の人たちが室内履きとして使ったのが始まり、という説もありますが、こちらは1点の資料だけです。
もとはノルウェーの室内履きだった、という説もあります。これも1点の資料だけです。
どれが本当の始まりかは、いまの資料では決められません。英国に始まりを置く点は2点の資料がそろいますが、室内履きだったことは、当時の誌面では確かめられませんでした。
詳しく見る:3つの話の中身
話では、バイヤーが靴を見たのはロンドンのバーリントン・アーケードで、その翌年にはパームビーチで履かれたといいます。1936年6月には、ニューヨークの百貨店が広告で売り込んでいました[5]。
ノルウェーの職人はレンジリー(米国メイン州の地名)の辺りで技を覚えたのかもしれず、元をたどれば米国のモカシン工場で働いた2人のノルウェー人に行き着く、という話も添えられていました。これも人から聞いた話で、裏は取れていません[5]。
同じ頁の広告で、売り手のロジャース・ピートは、もとはノルウェーの農民が作って履いた靴だと主張しています[5]。
英国の室内履きの説では、使ったのは英国の王室など上流階級の人たちです[1]。
1920年代の英国で流行したとする資料もありますが、そこには室内履きとも上流階級とも書かれていません[8]。
ノルウェーの室内履きという説は、「ノルウェー」が1936年の話と、「室内履き」が英国の説と重なりますが、その組み合わせはどちらとも違います。この説は1点の資料だけです[9]。
コインローファー(ペニーローファー)の「ペニー」は硬貨のこと?
名は、甲の帯(サドル)の切れ込みに硬貨を入れたことに由来するとされます。ただ、誰がいつ、なぜ入れたのかは分かっていません。
ここがポイント
1936年6月の時点で、この靴の甲の帯は「幅の広い、縁を波形にした帯」と紹介されていますが、硬貨の話は出てきません。
手元の本4冊と語源の辞書、当時の靴業界の雑誌4号と新聞広告を見ても、当時硬貨を挟んでいたという記述は見つかっていません。理由(財布を忘れたときの用心など)を書く本はありますが、根拠は示されていません(編集部調べ、2026年10月)。
名前のほうは、1947年4月17日に、カナダ・アルバータ州の靴店が「Penny Loafers, Ballerinas, Oxfords」と並べて広告していました。これより前の例があるかは、まだ確かめきれていません。
詳しく見る:硬貨の種類、探した範囲、美術館に残ったローファー
挟む硬貨は、資料によって1ペニー硬貨と1セント硬貨に分かれます[1][7]。
1936年6月の原文では、甲の帯は「broad scalloped sabot strap」(幅の広い、縁を波形にしたサボのストラップ)でした[5]。
探した範囲(硬貨を入れた理由と、硬貨を挟んだという当時の記述): 次の資料を見ました。当時の記述は、下の雑誌4号と広告で探しました(編集部調べ、2026年10月)。
その後のローファーは、美術館の所蔵品にも残りました。ニューヨークのメトロポリタン美術館は、1954〜58年のイタリア製の革のローファーと、1972年ごろのグッチのローファー(素材は革・金属・ウール)を所蔵しています[11][12]。
1936年に「ノルウェーの靴」としてニューヨークで売り出された型が、のちにイタリアの作り手やブランドの品として美術館に残りました。ただ、誰がいつどの飾りを始めたかは追えていません[5][11][12]。
ローファーとスリッポン・モカシンの違い
ひもの無い短靴の総称がスリッポンで、ローファーはその型の一つとされます。間にモカシン(甲をU字形に縫い合わせたスリッポン)を置き、そのうち甲に飾りのある革靴をローファーとする分け方もあります。
| 名前 | どんな靴か | 見分ける所 |
|---|---|---|
| スリッポン | 靴ひもが無く、足を滑らせて履く靴(一説) | ひもが無い |
| モカシン | 甲をU字形に縫い合わせたスリッポン(一説) | 甲のU字形の縫い目(モカシン縫い) |
| ローファー | モカシンの一種で、甲に飾りのある革靴(一説) | 甲の飾り |
ここがポイント
1936年、売り手はこの靴を「靴でも、スリッパでも、モカシンでもない……そのすべて」とうたいました。どの名前の枠にも収まらない靴として売ったのです。
詳しく見る:モカシンの説明の違いと、1936年の作り
ローファーを「U字のモカステッチが特徴のスリッポン」とする資料もあります。モカシンの説明は資料で分かれ、アメリカ先住民が履いた短靴の一種で、ローファーにも多く使われてきた作り方、とする資料もあります[7][8]。
表は一つの分け方を並べたもので、例外もありえます。スリッポンを足を滑り込ませて履く靴の総称とし、ひもやファスナーを使わず、飾りにバックルなどが付くものもある、とする資料もあります[7]。
この売り手は、ニューヨークの紳士服店ロジャース・ピートです。G.H.バス社が作る「Weejuns」を、6ドル50セントで売っていました[5]。
ロジャース・ピートは、革で器のように足を包むモカシンの作り、手で裁った底、縫い目を見せた農民靴風の甲(vamp)まで、元の靴をそっくり写させたとうたっていました。底は手で縫い、ヒールは手で木釘留めしてありました[5]。
よくある質問
Q. 「ローファー」は「怠け者」という意味?
A. 英語の loafer は、「ぶらぶらする人、怠け者」を指す語と同じ綴りです。脱ぎ履きが楽だから付いた名だとする資料もありますが、根拠は示されておらず、1936年2月には形の違う靴(モンクストラップ)がこの名で売られていました。
Q. ローファーはノルウェー生まれ?
A. 決め手の資料はまだありません。ノルウェーの農民の靴、英国の上流階級の室内履き、ノルウェーの室内履きの3つの説があり、確かなのは、1936年6月に「ノルウェーの靴」としてニューヨークで売られていたことです。
Q. ペニーローファーとコインローファーは同じ?
A. 同じ型の別の呼び名とされます。甲の帯の切れ込みに硬貨(コイン)を挟む型で、どちらの名でも呼ばれます。
関連語
参考にした資料(12点)
- [1]高村是州『アイテム 歴史 スタイル 専門用語 デザイン すべてがイラストでわかる ファッション事典』日本文芸社, 2026
- [2]Online Etymology Dictionary「loafer (n.)」
- [3]「Spring Styles in Los Angeles」Boot and Shoe Recorder, 1936
- [4]Anne R. David「The Younger Crowd」Boot and Shoe Recorder, 1940
- [5]「Transmigration of a Style」Boot and Shoe Recorder, 1936
- [6]「Sandals and Sport Types Good in Miami」Boot and Shoe Recorder, 1938
- [7]2nd 編集部『別冊2nd ローファー好きのための本』枻出版社, 2019
- [8]MEN’S EX 編集部 編『最高級靴読本 archives』世界文化社, 2013
- [9]落合正勝『[新版]男の服装術 スーツの着こなしから靴の手入れまで』PHP研究所, 2004
- [10]靴店の広告「Just Arrived」Raymond Recorder, 1947
- [11]The Metropolitan Museum of Art「Loafers(Italian, 1954–58)」
- [12]The Metropolitan Museum of Art「Loafers(Gucci, ca. 1972)」
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